金融庁が悪徳な金融事業者を改心させるため、共通KPIという指標を導入しました。
金融機関の順位付け(みたいなの)が公表され、反響を呼んでいますが、この指標には問題点もあります。
金融機関が成績を上げたいがために顧客のことを考えない対策を実施する恐れがあります。
共通KPIとは
金融機関が顧客本位の業務運営をしているか把握するための成果指標として、投資信託の販売会社に対する共通KPIという次の3つの指標を公表しました。
指標1:投資信託等の運用損益別顧客比率
顧客ごとに投資信託で何パーセントの利益もしくは損失が出ているか。利益が出ている顧客が何パーセントいるかなどが分かる。
指標2:投資信託の預かり残高20銘柄のコスト・リターン
残高上位20銘柄の投資信託ごとのコスト(販売手数料1/5+年信託報酬)とリターン(過去5年の年率換算リターン)。力を入れている商品のコストとそれに見合ったリターンを上げているかが分かる。
指標3:投資信託の預かり残高20銘柄のリスク・リターン
残高上位20銘柄の投資信託ごとのリスク(過去5年間の年率換算リスク)とリターン(過去5年の年率換算リターン)。力を入れている商品のリスクとそれに見合ったリターンを上げているかが分かる。
これらの結果が11/7に公表されていますが、この中で指標1の結果を取り上げた報道が目立ち、ブログ等でも引用されています。プラスリターンの顧客比率が高い順の下図の結果は金融機関名を順位づけして掲載している報道機関もあります。

指標1のプラスリターンの顧客比率だけが重要視されて大丈夫?
今回公表のプラスリターンの顧客比率から分かること
結果の考察は報道やブログなどでいろいろと言われているので簡単に。
上位3社は独自商品の積立がメインで買換えが少ないためよい結果のようです。ただし、限られた商品構成なので今後の状況によって悪化する可能性もあります。最近の顧客が多そうなレオス・キャピタルワークスの2019.3末の結果は気になりますね。

2019.3末時点が悪くても、顧客本位じゃなくなったってことではないですよ。単に相場が悪い直近の客の増加が多かったってこと。
その他の証券会社はだいたい4割の顧客がマイナスリターンです。集計期間が会社によって違うので順位は気にしない方がいいですが、ネット証券はもっと良いかと思いました。ここ数年の相場環境で4割の人が損失って信じられないです。

みなさん「上がれば利確、下がれば塩漬け」が好きなんですかね。それとも最近、信託報酬の下がった投資信託に乗り換えただけ?
下から2番目にプライベートバンク証券が入っていますね。商品提案力よりコストが重要ということですかね。
利用者としては、この順位で金融機関選びをするのではなく、商品の選択を金融機関任せにしないことが重要だと思います。

今回公表している36の金融機関は、取り組む意思があり良いと思います。プラスリターンの比率だけじゃ顧客本位かなんて分からないです。公表していない機関の中にやばいとこがありそう。
共通KPIのプラスリターンの顧客比率を上げるには
顧客本位の対策
金融機関が本来行うべき対策は主に次の3つだと思います。
・売りやすいポリシー(運用方針)だけど、実は顧客不利な商品を販売しない。
「リスク限定型なんちゃらかんちゃら」「奇数月定率分配」「とりあえずESG投資」…。
・コストが安くリスクに応じたリターンが得られる優良な投資信託を販売。
・リスクが偏らず全体として利益が確保できるポートフォリオ(商品組合せ)の提案。
損切りさせてプラスリターンに
てっとり早くプラスリターンの顧客比率を上げるには、マイナスのファンドは損切りさせてプラスのファンドは保持させることです。
共通KPIの計算対象は、基準日時点で対象顧客が保有している投資信託です。基準日時点までに全部売却・償還された銘柄は対象外なのです。
損失出ているファンドは良くないからと、購入手数料をサービスして別のファンドに乗り換えさせればいいのです。そうすれば別の新たなファンドは±0から始まるし、他のプラスのファンドがあればその人はプラスリターンに早変わりです。購入手数料分以内のおまけ(定期預金の金利アップとか)をつける手法もあるけど、そうするとKPIの評価には不利になりますね。
で、顧客の立場では購入手数料がサービスで乗り換えられるならいいのでしょうか?信託財産留保額分のマイナスや、今回の損失が課税上なかったことになってしまわないように要注意です。
利益がでているものは少し残させる
共通KPI対策のファンド乗り換えキャンペーンで、利益が出ているファンドの乗り換えを申し込まれたらどうしましょうか?
その場合は利益分だけでも残してもらえばOKです。少しでも残ればそのファンドの累計の全損益が対象だからです。
たとえば、手数料込み10,000円で購入したファンドが11,000円の価値になっていたとします。(分配金はなかったとする。)
このまま共通KPI計算の基準日を迎えると、(11,000+0-10,000)/11,000で、+9%になります。
ここで、10,000円分を売却して基準日を迎えると、共通KPIの計算上は、(1,000+10,000-10,000)/1,000 で、+100%になります。
分母が基準日時点の評価金額だからできるマジックです。
顧客の立場としては、乗り換え時に課税されて得はないかも。
おわりに
次回は、本年12月末までの状況について、来年1月中に公表する予定だそうです。こんな報道のされ方をすると、今後に共通KPIを公表する事業者はそれなりの数値になるよう対策してから報告しそうなので記事にしてみました。
対面型の事業者の方が対策しやすくて共通KPIの指標1の数値上は有利なのかもしれません。本当は対面コストがかかっているのに。
金融庁の資料にも「目標達成を目指して、顧客本位ではないプッシュ型営業を行うことのないように意識付けすることが重要」って書いてあります。金融庁も指標の一面だけが注目されることへの危機感はあるのでしょう。
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